米国株市場分析 ― 指数の小幅安は半導体の崩れを隠す
S&P500は週 ▲1.95% にとどまったが、半導体指数SOXは週 ▲11.41% と8営業日続けて下げ、6/22の高値から ▲23.9% と下落相場の目安(▲20%)を超えた。売られた理由は業績ではない。AIデータセンターを借金で建てるCoreWeaveの社債利回りが15%を超え、その不安が半導体とメモリに広がったところへ、9月の物価の再加速が重なった。守りの業種が上位に立つのは2週目で、市場体温は中立から弱気寄りへ引き下げる。
結論:AIの借金への不安が、業績の強い半導体を売らせた
下落の理由が変わったITのQ3増益率は +65.1% で、前週から変わっていない。それでもハイテクETFは週 ▲7.70%、SOXは ▲11.41% と最も売られた。業績が悪くなったのではなく、AI投資を支えるお金の流れに不安が出た。借金でデータセンターを建てる企業の信用が揺らぐと、その企業に半導体を売る側の将来の売上も疑われる(確信度:中)。
それでも弱気にしないのは、S&P500全体は ▲1.95% にとどまり、守りの業種とエネルギー・素材は上がったからである。全面安ではなく、お金が半導体から守りへ移った週だった。TSMCは10/15に過去最高益を出し、AI需要そのものは崩れていない。
今週の3つの変化
- 信用 AIクラウド企業の借金が、債券市場で危ぶまれ始めたCoreWeaveの5年物CDS(倒産に備える保険料)が過去最高をつけ、社債利回りは15%を超えた(報道により数値に幅あり)。NVIDIAのフアンCEOは10/15に「支援は不要」と述べたが、翌日も ▲11.91% と売られた。株より先に動く債券市場が警戒を強めている。
- 物価 物価が再び強まり、10月の利上げが五分五分になった9月の消費者物価は前年比 3.7%(予想 3.6%)、生産者物価は 6.3%。WTI原油は週 +7.83% の $99.04 まで上がった。10月の利上げ確率は 22% から五分五分へ上がり、FRBのウォーシュ議長も否定しなかった。
- 物色 守りの業種が上位に立つのは2週続いた生活必需品・エネルギー・ヘルスケア・素材が上、ハイテクが最下位という並びが2週続いた。物価高・原油高・利上げ観測の中で守りに移る相場への移行が、本格化したと判断する(確信度:中)。守りへの移動が始まった1週目は米国株市場分析|最高値でも強気の根拠にならないにまとめた。
先週の見立ての答え合わせ
- ○守りの業種の上位が2週続けば局面判断を進める2週続いたため、判断を一段進めた
- ×10年債 5.35% の終値定着を引き下げの条件とした定着せず、10年債は 5.24% から 5.10% へ下がった。それでも株は下がり、引き下げの理由は金利ではなく信用と物価になった
- △NVIDIA 買い:週 ▲6.61%値下がりでは外れ。ただしSOX・AMD・Micronより下げが小さく、同業との比較では当たり
- ×Teradyne 買い:週 ▲19.29%外れ。会社固有の悪材料はなく、半導体全体とメモリ株の急落に巻き込まれた
- ○Zscaler 中立:週 ▲11.27%当たり。目標株価に届いた後の利益確定の読みどおりで、買いにしなかったことで下落を避けた
体温を動かす条件
- ↓VIXの終値が25を超えて定着する、またはSOXが高値から ▲30% に達する弱気へ引き下げる
- ↓信用不安がOracleなど巨大IT企業の資金調達に広がる、または10月FOMCで利上げと追加利上げの示唆弱気へ引き下げる
- ↑10/21のMeta決算で設備投資計画が維持・上積みされ、CoreWeaveのCDSが下がり、SOXが週間でプラスに戻る中立へ戻す
主要指標
10/16 終値| 指標 | 終値 | 前日比 | 週間 |
|---|---|---|---|
| S&P500 | 7,659.44 | ▲1.09% | ▲1.95% |
| Nasdaq100 | 29,187.55 | ▲2.50% | ▲5.49% |
| SOX 半導体 | 11,137.29 | ▲3.83% | ▲11.41% |
| VIX | 19.99 | +21.4% | +34.7% |
| 米10年債 | 5.10% | +1bp | ▲14bp |
| ドル円 | 157.99 | — | ほぼ横ばい |
| Gold先物 | $4,186.70 | — | ▲0.70% |
| WTI原油 | $99.04 | +3.5% | +7.83% |
恐怖指数とも呼ばれるVIXは19.99と、警戒の目安の20に迫った。10年債は下がったが、景気と信用への不安による低下で、株の追い風にはならなかった。原油高は中東情勢とホルムズ海峡をめぐる緊張による。
守りの業種が上位、半導体が最下位の2週目
週間騰落率セクターETFと半導体指数の週間騰落(10/9比)。中央の縦線がゼロ。
S&P500は週 ▲1.95%。上位4つは前週とほぼ同じ顔ぶれで、ハイテクは2週続けて最下位だった。前週末に反発したソフトウェアとセキュリティも、10/16に Okta ▲10.20%・Snowflake ▲8.43% と反発分を吐き出した。
借金への不安はAIの供給網を上流へさかのぼった
週間騰落率AIデータセンターに関わる企業の週間騰落(10/9比)。右端の縦線がゼロ。
借金で設備を持つCoreWeaveが最も下げ、メモリ・記憶装置(Micron・Seagate)と検査装置(Teradyne)が続いた。メモリには中国CXMTのDRAM技術進展の報道も重なった。NVIDIAは同業で最も下げが小さく、3週続けてSOX・AMD・Micronを上回った。SOX指数の見方はSOX指数が逆行高:インテル復活とブロードコム急落の理由で解説した。
業績予想と株価のねじれ(2週目)
今週の分析の核| セクター | Q3増益率 | 内訳を開けると | 今週の株価 | 整合 |
|---|---|---|---|---|
| エネルギー | +127.6% 前週 +121.1% | Chevron・ExxonMobil・Marathon Petroleumの上方修正が続く。原油は $99 | +4.86% | 業績と株価がそろって強い唯一の組み合わせ |
| IT | +65.1% 前週 +65.1% | 半導体(+130%)を除くと +24.4%。Micron・NVIDIAの2社で全体の増益率を約9pt押し上げ | ▲7.70% SOX ▲11.41% | 増益率は2位なのに株価は最弱 |
| 素材 | +27.1% | 金属・鉱業 +47% | +3.01% | 原油高・物価高で買われた |
| 工業 | +14.2% | — | ▲0.88% | 増益率は中位だが下落 |
| 公共 | +7.5% | AIデータセンター向けの電力需要 | +1.93% | 守りとして買われた |
| 一般消費財 | +3.2% | — | ▲0.35% | — |
| 生活必需品 | +3.2% | — | +5.02% | 増益率は下位なのに株価は最強 |
| 金融 | +3.0% | Goldman Sachsは大幅上振れ、JPMorganは珍しい未達 | +1.44% | 銀行決算はまちまち |
| ヘルスケア | ▲2.6% 9/30時点 +5.5% | Eli Lillyが買収した研究開発の一時費用を計上。医薬品を除くと +7.4% | +3.45% | 唯一の減益でも買われた。減益は一時費用によるもの |
株より先に動く債券市場が、倒産の可能性を織り込み始めた。株主は債権者より後に返済を受けるため、信用不安が続くかぎり株価の戻りは小さい。
- 目標株価
- コンセンサス $140.58(+129.0%)/自己評価 $50(▲18.6%)
- バリュエーション
- 赤字のためPERなし。時価総額は2026年売上見通しの 約2.6倍
- 直近決算
- Q2 売上 $2.575B(+112%)・純損失 $626M。支払利息が営業段階の利益を上回る
- 受注残
- 約 $104B
- カタリスト
- 11月上旬のQ3決算・資金調達の成否・NVIDIAの支援姿勢
- 判定が外れる道
- NVIDIAの $6.3B の買取契約が安全網と意識される・長期契約を担保にした低利の借入が広がる
中立へ戻す3つの条件はどれも起きておらず、買いを維持する。ただしCoreWeaveへの出資と買取契約で、NVIDIA自身が顧客の借金を支える側に立つ構図が見えたため、確信度と目標を下げた。
- 目標株価
- コンセンサス $328.72(+53.5%)/自己評価 $300 → $285(+33.1%)
- バリュエーション
- 予想PER 17.70倍。S&P500の19.0倍を下回る
- 直近決算
- Q2 FY2027 売上 $96.2B(+106%)・Q3の会社見通し $108B
- 高値からの下落
- 10/6の最高値 $243.37 から ▲12.0%
- カタリスト
- 10/21 Meta決算の設備投資計画・11月のQ3決算
- 最大リスク
- 顧客の信用不安がNVIDIAの財務に及ぶ経路
前週の買いは外れたが、下げの理由は半導体全体の売りで、会社固有の悪材料は見当たらない。割安度は増したが決算前で値動きが荒く、買うなら決算後か分けて買う。
- 目標株価
- コンセンサス $446.47(+37.4%)/自己評価 $455 → $420(+29.2%)
- バリュエーション
- 予想PER 33.32倍・2027年予想PER 約27.9倍(前週 34.6倍)
- 売上の予想
- 2026年 $5.14B(+61%)・2027年 $6.26B(+22%)
- カタリスト
- 10/27決算:メモリテスター Magnum E2 の受注・Q4見通し
- 最大リスク
- メモリ投資の先行き懸念・半導体全体の株価水準の切り下げ
業績は崩れていないが、2社への依存が大きい
今週のトピック株価が守りに傾いても、Q3決算の数字は高い水準を保っている。ただし中身は偏っている。
- 予想を上回った企業
- 84%(5年平均 78%)。ただし上回った幅は +2.6% で5年平均 +7.5% に届かない
- 売上の上振れ
- 67% で5年平均 70% を下回った
- 上振れ企業の株価
- 発表前後で平均 ▲0.2%(5年平均 +0.9%)。好決算でも売られている
- 大型テック7社
- Q3 +33.2% に対し残り493社 +27.7%。7社の伸びはNVIDIAとMetaでほぼすべて
- Q4の予想
- 7社 +23.6% に対し493社 +30.6%。実現すれば2022年Q4以来の逆転
指数の増益率は高いが、半導体2社を除けば伸びは3分の2になる。その半導体が借金への不安で売られている以上、指数の業績の強さは株価の支えになりにくい(推測・確信度:中)。増益が一部の企業に偏る構図はS&P500の増益率は実態より強く見えるでも取り上げた。
次に確認すべきこと
日付順| 時期 | イベント | 注目点 |
|---|---|---|
| 10/21 | Meta・Tesla 決算 | 大型テック7社の先陣。Metaの設備投資計画が維持・上積みされるか |
| 来週 | Netflix・IBM ほか S&P500の79社が決算 | 上振れ企業の株価反応がプラスに戻るか |
| 10月下旬 | FOMC | 利上げは五分五分。追加利上げの示唆があれば弱気へ |
| 10/27 | Teradyne・Seagate 決算 | メモリテスターの受注とQ4見通し |
| 11月上旬 | CoreWeave 決算 | 資金調達の計画と支払利息の重さ |
| 11月中旬 | NVIDIA 決算 | 売上見通し $108B の達成 |
| 継続 | CoreWeaveのCDS | 信用不安が巨大IT企業の資金調達に広がるか |
| 継続 | SOXの高値からの下落率 | ▲30% に達すれば弱気へ |