米国株市場分析 ― 最高値でも強気の根拠にならない
S&P500は週 +1.15% 上昇し、10/6に初めて7,800台に乗せた。だが上昇を引っ張ったのは公共 +3.97%・生活必需品 +3.60%・ヘルスケア +2.79% といった景気に左右されにくい守りの業種とエネルギーで、これまで相場の主役だった半導体指数SOXは週 ▲4.30% と最も弱かった。決算で予想を上回った企業の株価も平均 0.0% と反応していない。指数の最高値は投資家が強気になった証拠ではなく、市場体温は中立に据え置く。
結論:指数は強いが、中身は守りに逃げている
主役が入れ替わった上位に並んだ公共・生活必需品・ヘルスケアは、Q3の増益率がそれぞれ +7.0%・+3.1%・+4.2% と低い。反対に増益率 +65.1% のITは週 ▲0.52%、半導体は ▲4.30% だった。業績の強い順ではなく、守りやすい順に買われた。業績で買われる相場から、金利と不安で守りに逃げる相場へ移る局面に見られる値動きである(確信度:中)。
それでも体温を下げないのは、業績そのものは崩れていないからである。Q3決算は序盤で84%が予想を上回り、増益率の予想は5週続けて上がった。今回の入れ替わりはOpenAI報道と金利急騰という2つのショックが重なった1週だけの事実で、2週続けば相場の局面判断を一段進める。
今週の3つの変化
- 物色 前週と順位がほぼ逆になった前週最強だった半導体とハイテクが最下位に、前週最弱だったヘルスケアと金融が上位に入れ替わった。株の上乗せ利回り(益回り5.24% − 10年債5.24%)は ▲0.01pt で、2週続けてマイナスのままである。マイナスに転じた経緯は米国株市場分析|業績は最強でも株は利回りで国債に負けたにまとめている。
- AIの資金源 AI需要の最大の買い手の売上に疑問符が付いた10/8に英FTが「OpenAIの年換算売上は約$50B(約7.6兆円)で、これまでの報道より約$20B少ない」と報じ、Oracle ▲5%・Micron ▲4.8%・NVIDIA ▲2.94% と急落した。差は売上を総額で計上するか純額で計上するかの会計の違いとの見方が有力で、需要が消えたことを示すものではない(確信度:中)。
- 金利 長期金利が警戒線に日中だけ触れた9月FOMCの議事要旨で大半の参加者が年内の追加利上げを想定していたことがわかり、12月の利上げ確率は 83% に上がった。10年債は10/7に一時 5.37% と、前週に設けた警戒線 5.35% を超えたが、終値では定着していない。
体温を動かす条件
- ↓10年債が 5.35% を超えて終値で定着するまたは上乗せ利回りが ▲0.1pt 以下で定着する。10/14の9月CPIが分かれ目になる
- ↓Q3決算で1株利益予想の下方修正が始まる来週の大手銀行決算から本格化する
- ↑10年債が 5.1% を割り、SOXが週間でプラスに戻る金利の逆風が和らぎ、相場の主役が戻ったと判断できる。強気へ引き上げる条件として今週新たに設けた
主要指標
10/9 終値| 指標 | 終値 | 前日比 | 週間 |
|---|---|---|---|
| S&P500 | 7,811.54 | +0.59% | +1.15% |
| Nasdaq100 | 30,883.15 | +0.51% | +0.24% |
| SOX 半導体 | 12,572.42 | ▲0.41% | ▲4.30% |
| VIX | 14.84 | ▲3.70% | ▲3.07% |
| 米10年債 | 5.24% | +1bp | ▲4bp |
| ドル円 | 158.25 | +0.29% | +0.27% |
| Gold先物 | $4,216.30 | +1.43% | +1.06% |
| WTI原油 | $91.85 | +0.39% | +0.65% |
恐怖指数とも呼ばれるVIXは14.84で、投資家に慌てた様子はない。10/8にはイランのホルムズ海峡をめぐる威嚇とハリケーンで北海ブレントが$104台をつけた。ミシガン大の消費者の1年先インフレ期待は 4.7% に上がった。
上位は守りの業種、最下位は半導体
週間騰落率10セクターETFと半導体指数の週間騰落(10/2比)。中央の縦線がゼロ。
S&P500は週 +1.15%。上位4つのうち3つが景気に左右されにくい守りの業種だった。金曜はソフトウェアとセキュリティが反発し、Zscaler +7.80%・Snowflake +7.42% と上げたが、半導体はその反発にも加わらなかった。SOX指数の見方はSOX指数が逆行高:インテル復活とブロードコム急落の理由で解説した。
予想を上回っても株価は上がらない
FactSet 決算前後の株価Q3決算を発表した企業の、発表2日前から2日後までの平均株価変化。中央の縦線がゼロ。
発表済みは19社(S&P500の3.8%)と序盤の数字である。予想を上回った企業の割合は84%(5年平均78%)と高いが、上回った幅は平均 +4.9% で5年平均 +7.5% に届かない。「予想より良い」だけでは株価は動かず、Q4や2027年の見通しの上積みが求められる(確信度:中)。
業績予想と株価のねじれ
今週の分析の核| セクター | Q3増益率 | 内訳を開けると | 今週の株価 | 整合 |
|---|---|---|---|---|
| エネルギー | +121.1% 前週 +114.0% | 石油精製・販売が +462%。2027年Q2・Q3は約 ▲20% の減益予想 | +3.60% | 業績と株価がそろって強い。ただし買われているのは利益のピーク |
| IT | +65.1% 前週 +65.0% | 半導体(+130%)を除くと +24.4%。NVIDIA・Micronが上方修正を牽引 | ▲0.52% SOX ▲4.30% | 増益率は上位なのに株価は最弱 |
| 通信 | +51.4% | Meta・EchoStarを除くと +11.9% | +0.05% | 金曜はSpaceXの周波数発表で通信会社が売られた |
| 素材 | +28.5% | 6/30比 ▲9.6% の下方修正(Newmont・Dow) | +1.17% | 小動き |
| 工業 | +14.3% | — | ▲0.41% | 増益率は中位だが下落 |
| 公共 | +7.0% 6/30時点 +8.8% | 9月の米国の電力需要は過去最高(前年比 +8.7%)。AIデータセンターが押し上げ | +3.97% | 増益率は低いのに株価は最強。買われた理由は業績ではなく電力需要の話題と守り |
| ヘルスケア | +4.2% | 6/30比 ▲4.1% の下方修正(J&J・Incyte・Pfizer) | +2.79% | 前週最弱から反転 |
| 一般消費財 | +3.2% | — | +2.55% | — |
| 生活必需品 | +3.1% | 6/30比 ▲3.0% の下方修正(Walmart) | +3.60% | 下方修正でも買われた |
| 金融 | +3.0% | 6/30比 +1.6%(JPMorgan) | +2.32% | 4週ぶりに反発。来週の銀行決算待ち |
半導体が崩れた週に、NVIDIAは同業より下げが小さかった。AMD・Micronより強い値動きが2週続き、9/20に定めた買いに戻す条件を満たした。
- 目標株価
- コンセンサス $328.72(+43.4%)/自己評価 $300(+30.8%)
- バリュエーション
- 予想PER 18.96倍(S&P500の19.1倍とほぼ同じ)・PEG 0.38倍
- 直近決算
- Q2 FY2027 売上 $96.2B(+106%)・Q3の会社見通し $108B
- 同業との比較
- 週間:NVIDIA ▲2.00%・AMD ▲4.07%・Micron ▲4.27%。10/6に史上最高値 $243.37
- カタリスト
- 11月のQ3決算・次世代品 Vera Rubin の量産・OpenAIの続報
- 最大リスク
- OpenAIなど少数の大口顧客への依存
前週は上値余地がなくなって中立に下げた。1週で10%下げ、買い直す目安の $400 前後に届いた。下げの理由はメモリ株安・金利急騰・OpenAI報道で、会社固有の悪材料は見当たらない。
- 目標株価
- コンセンサス $446.47(+10.9%)/自己評価 $455(+13.0%)
- バリュエーション
- 予想PER 41.29倍・2027年予想PER 約34.6倍
- 売上の予想
- 2026年 $5.14B(+61%)・2027年 $6.26B(+22%)
- 追い風
- 台湾Nanyaが半導体メモリの契約価格を最大20%引き上げとの報道
- カタリスト
- 10/27決算:次世代メモリテスター Magnum E2 の受注
- 最大リスク
- 決算前で値動きが荒い・メモリの供給過剰懸念
投資家向け説明会のあと証券各社が目標株価を引き上げ、株価は週 +18.89% 上がった。ただし株価はすでに平均目標に届き、上値余地はない。
- 目標株価
- コンセンサス $233.38(▲0.1%)/自己評価 $200 → $240(+2.7%)
- バリュエーション
- 予想PER 47.62倍・予想売上倍率 約9.7倍
- 中期目標
- 2031年度に年間契約収入 $8B 以上。年率約16%の成長が続く計算で、成長の再加速ではない
- 材料
- IBM・Red Hatとの提携。証券各社の目標株価は $230〜275 へ
- カタリスト
- 12月のQ1決算
- 最大リスク
- 目標到達後の利益確定
業績はまだ上を向いている
今週のトピック株価が守りに傾いても、業績の予想は崩れていない。Q3決算シーズンの最初の数字。
- 実績が上振れる理由
- 過去40四半期のうち37回で、実績の増益率が四半期末の予想を上回った
- 見積もりの根拠
- 9/30時点の予想 29.2% に、過去10年の平均上振れ +6.9pt を足すと 36.1%、5年平均 +6.4pt では 35.6%
- 売上の伸び
- +12.4%(6/30時点 +10.9%)。11セクターすべてが増収増益の予想
- 株価の割高さ
- 先行PER 19.1倍。6/30以降、株価 +3.5% に対し予想利益は +10.4% 伸びた
- この先の増益率
- Q4 +28.0%・2026年 +32.7%・2027年 +15.8%。2027年Q2は +2.6% に急減速の予想
業績が強いまま株価が守りに傾いたのは、市場が「今の利益」より「来年の減速」と「金利」を見始めたからである(推測・確信度:中)。決算がどれだけ良くても、見通しの上積みがなければ株価は上がりにくい。増益が一部の業種に偏る構図はS&P500の増益率は実態より強く見えるでも取り上げた。
次に確認すべきこと
日付順| 時期 | イベント | 注目点 |
|---|---|---|
| 10/13 | JPMorgan・Goldman Sachs・Citi・Wells Fargo 決算 | 預金コスト・保有債券の評価損・貸倒れへの備え。金融の反発が続くか |
| 10/14 | 9月CPI/Bank of America・Morgan Stanley 決算 | 物価が強ければ10年債 5.35% 超の定着リスク |
| 10/15 | PPI・小売売上高 | 消費の底堅さ |
| 10/16 | FactSet 次号 | 上振れ企業の株価反応がプラスに戻るか |
| 10月下旬 | FOMC | 10月の利上げ確率は17%、12月は83% |
| 10/27 | Teradyne・Seagate 決算 | Teradyneはメモリテスターの受注、Seagateは東芝の増産への見方 |
| 11月 | NVIDIA 決算 | 売上見通し $108B の達成 |
| 継続 | セクターの順位 | 守りの業種の上位が2週続けば、相場の局面判断を一段進める |
| 継続 | OpenAIの売上と資金調達 | Oracle(受注残の約45%がOpenAI向け)・CoreWeave・NVIDIAへの波及 |