日経-931円の日に半導体株が逆行高した3つの理由

日経平均が約931円下落した日に、東京エレクトロンが+4.53%上昇するという「市場の二極化」が起きました。同じ日本株でも、半導体製造装置と産業用ロボットは真逆の動きをしています。なぜこのような乖離が生まれたのか、その構造を解説します。

目次

今日の日本市場、結論から言うと

2026年6月4日の日経225(日本を代表する225社の平均株価)は67,471円で引け、前日比-1.36%、約931円の大幅下落となりました。この下落の主役はソフトバンクグループ(9984)です。同日に発表した決算内容が嫌気され、一日で-11.28%の急落となり、指数への影響が大きい同社の下落が日経225全体を強く押し下げました。

ただし、この「日経が下がった日」に逆行高したセクターがあります。半導体製造装置です。東京エレクトロンやアドバンテストは大きく上昇した一方、ファナックや安川電機といった産業用ロボット株は下落しており、市場は二極化した一日となりました。半導体関連ファンドを保有している方にとっては、全体指数の下落とは異なる動きを実感した日だったはずです。

国内 AI・半導体銘柄の動き

東京エレクトロン(8035)は63,660円で引け、前日比+4.53%の上昇となりました。この5営業日で+21%という急騰の背景には、3つの理由があります。

1. 株式分割と自社株買いの同時発表(5月29日)
東京エレクトロンは5月29日、1株を5株に分割する株式分割(9月30日基準日)と、自社株買い(会社が自社の株を市場から買い戻すこと)の上限1,500億円を同時に発表しました。株式分割は1株あたりの価格を下げて個人投資家が買いやすくなる効果があります。自社株買いは市場に流通する株数を減らし、1株あたりの価値を高める企業アクションです。この2つが重なったことで、買い材料が積み重なりました。

2. 米国半導体市場の上昇による連鎖高
前日の米国半導体市場が上昇したことで、連動性の高い東京エレクトロンにも買いが波及しました。米国市場との具体的な連動については後の章で詳しく解説します。

3. アナリストによる目標株価の上方修正
複数のアナリストが目標株価を63,000〜65,000円へ上方修正しており、機関投資家の買いを後押しする格好となりました。

アドバンテスト(6857)も28,170円、前日比+1.84%と同方向の動きになりました。半導体製造装置・検査装置セクター全体に資金が流入した一日です。

一方、ファナック(6954)は7,800円で前日比-2.19%、安川電機(6506)は6,942円で-2.94%と下落しました。産業用ロボット株は受注の伸び悩みと中国向け販売への懸念が重なり、売り圧力が続いています。同じ「テクノロジー株」に分類されることもありますが、半導体製造装置と産業用ロボットは動く要因が異なります。セクターごとに動く理由を分けて見ることが、市場を読む上で重要です。

ソフトバンクグループ(9984)は7,377円で引け、前日比-11.28%の急落となりました。2026年3月期の純利益は5兆円超の過去最高水準でしたが、この利益の大部分はOpenAIへの投資評価益(6.7兆円)という一時的な要因によるものです。「本業の収益力が改善したわけではない」という見方が広がり、売りが出ました。AI関連という括りでも、半導体製造装置と投資会社では動く要因がまったく異なります。

電子部品セクターでは村田製作所(6981)が9,904円で前日比-4.95%と大幅下落しました。前営業日(6月3日)に+22%の急騰を記録した後の利益確定売りで、短期的な反落の局面です。中長期の方向性は、AI端末・データセンター向けMLCC(積層セラミックコンデンサ:電子機器の基板に多数使われる小型部品)の需要拡大が鍵を握ります。

米国市場との関係を読み解こう

ここで米国市場の数字を見ていきます。

SOX指数(フィラデルフィア半導体指数:米国上場の主要半導体企業30社で構成される株価指数)は13,916.96、前日比+1.39%の上昇でした。この上昇が東京エレクトロンやアドバンテストへの連鎖高につながっています。東京エレクトロンはTSMC(台湾積体電路製造)や日本のメモリメーカー向けに半導体製造装置を供給しており、世界の半導体サプライチェーンの中に深く組み込まれています。米国の半導体企業の業績や株価が改善すると、製造装置の需要が増えるという期待から、東京エレクトロンにも買いが入る構造です(SOX指数の詳細はこちら)。

Nasdaq100は30,571.24、前日比-0.29%とわずかに下落しました。VIX(市場の不安度を示す指数:数値が高いほど投資家が将来の値動きを不安視していることを示す)は15.42と比較的落ち着いており、パニック的な売りが出ている状況ではありませんでした。

注目されたのがBroadcom(米国の大手半導体企業)の決算です。6月3日の引け後に発表された決算では、AI向け半導体の売上高が前年同期比+143%という驚異的な数字を記録しました。しかし株価は時間外取引で-7.6%急落しています。

なぜ好決算なのに株価が下がったのか。理由は売上高全体が市場予想をわずかに下回ったためです。投資家は「実際の数字」だけでなく、「事前の期待値との差」で反応します。AI半導体が+143%でも、全体の売上高が期待に届かなければ失望売りが出る、これが「決算は数字だけでなく、期待値との乖離を読む必要がある」理由です。

なお、翌四半期のガイダンス(業績見通し)は324億ドルと市場予想を大幅に上回っており、中長期的には好材料として評価される可能性があります(S&P500上位銘柄の構成についてはこちら)。

明日の米国市場の注目ポイント

最大の注目は、6月5日21:30(日本時間)に発表される米雇用統計です。非農業部門雇用者数・失業率・平均時給の3指標が発表されます。

雇用統計は「FRB(米国中央銀行)が政策金利をどう動かすか」を見通す上で最も重要な指標のひとつです。雇用が強い(雇用者数が大きく増える)と、FRBは「景気は堅調で利下げを急ぐ必要がない」と判断しやすくなります。利下げが遠のくと、株式市場には逆風になりやすい傾向があります(野村半導体関連ファンドへの影響についてはこちら)。

直近4月の実績は+11.5万人でした。5月の数字がこれを大きく上回るか・下回るかで、週明けの市場のムードが変わる可能性があります。

加えて、Broadcom決算の余波が翌日の米国半導体株にどう影響するかも確認が必要です。時間外-7.6%の動きが引けにかけて修正されるか、そのまま売りが続くかで、翌朝の東京市場の半導体株にも影響が出る可能性があります。

雇用統計は週末金曜日の発表のため、週末を前にしたポジション調整も重なり、値動きが大きくなりやすい点も頭に入れておきましょう。

リーマン先輩のひとりごと

今日は日経が-931円という、久しぶりに重みを感じる下げ幅でした。しかし、半導体ファンドを見たら上がっていた、という体験をした方もいるのではないでしょうか。全体指数だけ見ていると、本当に見えないものがあると改めて感じた一日でした。

東京エレクトロンの株式分割+自社株買い同時発表は、教科書のような企業アクションでした。1,500億円の自社株買いはインパクトがあります。株式分割で個人投資家が入りやすくなるという期待も重なり、5営業日で+21%という動きになりました。

東京エレクトロンが+4.53%、ソフトバンクグループが-11.28%。同じ「テクノロジー・AI関連」と括られる銘柄でも、これだけ方向が違います。半導体製造装置と投資会社では動く要因がまったく異なります。この違いを知っていると、市場の読み方が変わってきます。

Broadcomの決算も勉強になりました。AI半導体が+143%伸びているのに株価は下落しました。数字の良し悪しより「期待値との差」が株価を動かす、というのは投資の面白くて難しいところです。

明日の雇用統計は週末前の最後のチェックポイントです。発表後の値動きは大きくなりやすいので、今夜はどの方向に動くか、私も注目しています。

本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

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