新NISAが始まって一番資金が流入した投資先が全世界株式(オルカン)でした。一強と言われている『eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)』は新NISAが始まって4か月経った今でもSBI証券の月刊ランキングで堂々の1位、楽天証券、マネックス証券、カブドットコム証券でも2位につけています。(なおTopを競っているのは以前コラムで紹介した『S&P500』です)
実は先日友人から、オルカンがいかに素晴らしいか、いかにS&P500はリスクが高いか、今新NISAを始めてないなら今すぐオルカンを買うように、と熱いあついレクチャーを受けました。(なお彼は私が投資ブログを運営していることを知りません)
私はオルカンに投資妙味を感じておらず、その場ではふむふむと相槌をうって話を聞き流したのですが、世間でのオルカン人気の一端を垣間見た思いでした。
そこで今一番熱い銘柄『オルカン』について分析し、私も気づいていないような魅力に迫ってみたいと思いましたが、『eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)』は既に分析は済んでいて、リスク&成長率と投資効率の分析結果はレギュラー枠でチャートに載せています。
一方でオルカンは色々な資産運用会社から商品が販売されています。多様な品揃えとなっていますので、どれを選べばいいか迷ってしまう方もいると思います。
ですので今回は、似たような銘柄をピックアップしてオルカン投資するならどの商品がいいのかを比較分析することにしました。
先に結論ですが、取り上げた4銘柄はどれも中身が酷似しており差がほとんどない中で、『Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)』の不誠実な手数料設定を糾弾しています。
ピックアップした4銘柄
今回ピックアップするにあたって、次の条件を設定しました。
✅信託報酬が安い
条件は潔く以上です。低コスト商品として抽出された銘柄は次のとおりです。
✅三菱UFJ-eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)
✅楽天・オールカントリー株式インデックス・ファンド
✅野村-はじめてのNISA・全世界株式インデックス(オール・カントリー)
✅日興-Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)
基礎情報
それではそれぞれの銘柄の基礎情報を見ながら、一覧にまとめましたので特徴と違いを見ていきましょう。
eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー) | 楽天・オールカントリー株式インデックス・ファンド | 野村-はじめてのNISA・全世界株式インデックス(オール・カントリー) | 日興-Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式) | |
ベンチマーク | MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス | |||
為替ヘッジ | しない | |||
信託報奨 | 0.05775%以内 | 0.0561% | 0.05775% | 0.05775% |
純資産 | 3,139,893百万円 | 115,626百万円 | 11,693百万円 | 3,545百万円 |
新NISA | 成長投資枠⭕️/つみたて投資枠⭕️ | |||
設定日 | 2018年10月31日 | 2023年10月27日 | 2023年7月10日 | 2023年4月26日 |
特徴と違いを主観でまとめてみました。
コストと純資産
コストの安さでは『楽天・オールカントリー株式インデックス・ファンド』、純資産の大きさ(人気の高さ)では『eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)』といったところです。楽天は戦略的に他社より安い信託報酬に下げてきています。とはいえ差は微々たるもので、この4本とも日本の投資信託全体で最低水準となっています。100万円投資して引かれる手数料が年間で600円でおつりがもらえる程の安さ、それで全世界に投資できてしまうのは確かに魅力的です。
ベンチマーク
ベンチマークは全てMSCIオールカントリー・ワールド・インデックスでこちらも横並びです。運用成績にもあまり差は出ないと思われます。
新NISAへの対応
新NISAへの対応状況ですが、全ての銘柄が成長投資枠にもつみたて投資枠にも対応しています。
運用期間
運用期間については『eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)』が設定されて6年近く経っている一方、残りの3本は昨年(2023年)に設定されたばかりの若い商品であることが分かります。
ここまででは4銘柄に違いが見当たりませんが、果たしてそうでしょうか。目論見書を読み解きながらさらに深く掘り下げて見ていきます。
投資対象
4銘柄ともベンチマークは同じでしたが、それぞれ何に投資をしているのでしょうか。調べてみたところ、4銘柄とも次の3つのマザーファンドを通じて実質的に全世界の株式に投資している、というスキームまで共通していました。
✅MSCIコクサイ・インデックス
✅MSCIジャパン・インデックス
✅MSCIエマージング・マーケット・インデックス
以上のことから4つのオルカン銘柄はどれも3つのファンドをブレンドして作られていることが分かりました。(通常マザーファンドは1つであることが多いです)
例えるならオルカンを買って箱を開けてみたら、先進国と日本と新興国の3品が詰め込まれていた、という感じでしょうか。
構成比率
続いて投資先の構成比率です。
『Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス』と『はじめてのNISA・全世界株式インデックス』、『eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)』の構成比率は次のとおりでした。
この図から構成比率は3銘柄ともほぼ同じということが分かります。
※『楽天・オールカントリー株式インデックス・ファンド』の構成比率は目論見書にありませんでした。
実質コスト
各銘柄の目論見書に目を通した結果、『Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス』だけ諸費用0.03%上乗せが明記されていることを発見しました。(下図の赤字箇所)
つまり 信託報酬0.05775%+諸費用0.03%=0.08775% が『Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス』の実際にかかるコストということになります。この諸費用は他の銘柄では信託報酬に含まれていることも確認できました。
明記されているとはいえ何となくすっきりしませんね。運用会社の日興アセットマネジメントに不誠実さを感じるのは私だけでしょうか。
まとめ
今回は今売れているオルカンのコストが安いものを中心に掘り下げてみました。その結果、『eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)』をその他の新興勢力が丸パクリして商品展開していることが浮き彫りになりました。その中で楽天証券は一歩踏み込んで手数料を引き下げており、老舗のeMaxisを手数料の安さで猛追する楽天、という構図が見て取れます。
新興勢力とはいえ野村も運用会社としてはしっかりしていますので、ここまで来ると好みや自分の証券会社で買えるものを選べばよいと思います。
但し日興アセットマネジメントのTracersは見かけよりコストがかかるため、この中からあえて選ぶ必要はないと言えるでしょう。
オルカンへの投資は、あまり投資に関心がなく、ただひたすら積み立てていきたい、という方に向いているのは間違いありません。まさに新NISAから投資をとりあえず始める初心者向けの商品ですね。コスト面に関しては秀逸です。
リーマン先輩のひとりごと
投資信託を購入する際に目論見書の確認が重要である、と今回改めて思い知らされました。おそらく信託報酬だけを見て『Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス』を購入している方もいるでしょう。
調べたところ、Tracersの他の銘柄も同様に信託報酬とは別に諸費用を計上していました。やり方としては非常に狡いです。たかが0.03%(100万円で年間300円)ですが、金額だけでなく信義の問題と思います。
なおこの記事を書いて、最終的にオルカンに興味が持てたか、と言われれば、やはり持てませんでした。コストの安さは確かに魅力的ですが、自分ならやはり『S&P500』や『全米株式(VTI)』を中心に、そこに組み合わせる新興国は中国を避けインドに重点を置いた運用をしたいからです。今の私のポートフォリオも実際にそうなっています。(私のポートフォリオはリクエストがあれば公開していきます)
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